千葉県で不動産業をされているC社様の実例です。
駅からC社様に着くまでに約20件の不動産会社がある激戦区で、ビジョン・ミッションを元に日々お客様と向き合っていらっしゃいます。

基本情報

業種 不動産業
所在地 千葉県

C社代表のT社長とは、もともとは研修で何度かご一緒したことがある研修仲間である。
若く、非常に精力的に仕事に向かい合っている姿に感動し、会社見学にお伺いしたことがきっかけだった。

C社は千葉県F駅から徒歩15分。
何より驚いたのは、その15分の間に不動産会社がゆうに20件は並んでいることだった。
この激戦区の中で、一体どのような差別化をして生き残っているのだろう?

ビジョン・ミッションの核はどこにあるか?

前述したとおり、C社の周囲には競合他社が非常に多い。
それも大手と呼ばれる不動産会社がずらりと立ち並んでいる。
そんな中でもお客様に選ばれ続けるには必ず何か理由があると、何度かT社長との個別セッションを繰り返すうちに、C社の本当の強みが見えてきた。

当時C社のスタッフは5名。
実はそのうちの5名(つまり全員)が、他県・他市からこの千葉県F市に引っ越してきた経験があるのだ。
そしてC社のお客様の多くは、他県・他市からこの地域に引っ越してくる方だった。

通常、大手の介在しない独立をした不動産会社は、その地域の古くからの住人であるケースが多い。
C社の場合はその真逆なのである。
全員が他県・他市から引っ越した経験を持っているが故に、はじめてこの地域に住む方は何を不安に思っているのか、どのような情報が本当は必要なのかを知っている。お客様自身も言われるまで気付かなったところまでサポートすることが出来るのだ。

そう、お客様はC社に『安心して、この初めての地域で暮らせること』を求めていた。
以上のような話をした際に、T社長から印象深い話を聞いたのでお伝えしておこう。
はじめてスタッフさんを交えたミーティングを行った際に、『あなた達の仕事は何か?』と聞いたことがある。
不動産会社の多くは『部屋情報を提供すること』と答えるだろう。
例に漏れずC社のスタッフさんもそのような答えをしてくれた。

しかし求められている価値をお伝えすることで、徐々に徐々に考え方が変わってくる。見えるものが変わってくる。
ある女性スタッフは『だったら、私は幼稚園の送迎バスのルートをお伝えします』と笑顔で言った。
別の男性スタッフは『お待ち頂いている間、F市で一番美味しいお菓子をお出ししませんか』と言った。
はじめてF市で暮らす人に、いかに安心してもらおうかという点が見えた瞬間に、考え方ががらりと変わったのだ。
部屋情報を提供する集団から、はじめてのF市暮らしを応援する組織に生まれ変わった。

突然のアクシデント

自分たちの本当の役割は何かを知り、組織が加速的に変化しようとした時、突然のアクシデントが起こる。
T社長の右腕として働いてくれていたスタッフさんの突然の退職だった。
思うところは様々あるが、これもきっと何かの啓示なのだ。
しかしこれは大変だ。
C社は決して人数の多い会社ではない。ひとり居なくなった穴を埋めるだけのマンパワーはあるだろうか。

本当に必要なものは何だろう?

結果として、C社は人員補充は行わなかった。顧客数も若干だが減っていた。
だが顧客単価は1.7倍になっていた。何が起きたのかご説明したい。

この結果を生み出したポイントは2つあった。
1点目は、ビジョン・ミッションが見えた為に、やる事とやらない事を明確に選び取れるようになったこと。
2点目は、ビジョン・ミッションを元にお客様に必要なものを、自信をもって紹介出来るようになったこと。

当時C社は、F市を中心とはしていたものの遠方の物件も抱えていた。
また、多くのリソースを費やしていたのが『メール営業』だった。
ここで考える必要があったのは『はじめてのF市暮らしを応援する』為に本当に必要なのかということだ。
遠方を探しているお客様や、それほどF市暮らしを急いでいない方へのアプローチは控えることにした。
そして『はじめてのF市暮らし』をしようと訪れるお客様に対しては、いかに安心して暮らし続けて貰えるかを念頭に
物件を案内した。
営業ではなくアドバイザーとしての立場を得られると、お客様からの信頼も厚い。
結果として、オプションや自社物件の紹介などを含め、顧客単価1.7倍が実現したのだ。

ねこ事件

お客様からの信頼と、ビジョン・ミッションを明確にした行動指針について、ひとつ象徴的な出来事が起きたのでご紹介したい。
とあるお客様の話だ。

「部屋を探しているのだけど私はひどい猫アレルギーなので、そのような物件は避けたいのです」
さて営業担当は困った。
今ご紹介しようとした物件は家賃も間取りもお客様の要望にピッタリだった。
しかも比較的単価が高く、会社としても優良な案件だ。
しかし、前の入居者が猫を飼っていた。
今はキレイにリフォームをして、黙っていれば分からない……。

C社では『はじめてのF市暮らしを応援する』という目的を設定した際、ひとつの行動指針も打ち出していた。
それは『100%情報開示』。
安心して暮らしていただく為に、情報は100%お客様にお伝えしようと決めていた。
営業担当はその行動指針に従って、お客様に包み隠さずお伝えしたのだ。
結果、その物件契約は流れてしまった。

会社に戻り報告をしたところ、T社長は彼を叱った。取れそうな契約を逃してしまったからだ。
しかし社内に流れるこの微妙な空気……。
T社長は一晩、じっくり彼の行動と理由、ビジョンとミッションを考えた。

翌日、T社長は営業担当の彼にこう言った。
「君の方が正しかった。申し訳ない」
社内には拍手が沸き起こった。

さらに後日、件の猫アレルギーのお客様が再び来店された。
「誠実な対応をしてくれたあなたに、やはり部屋を探してほしい」と言う。
まるでドラマのように出来過ぎた話のようだが、すべて実際に起こったことなのだ。

最後に

今でも印象に残っていることがある。
トップマネジメントミーティングを開催している際、事務員さんが話してくれたことだ。

「私は今まで、仕事の報酬はお金だと思ってました。お客様に喜んでもらえることも報酬なんですね」

当社がしたことは、とにかく『見える』ようにしたことだけだ。
誰のために何のためにある会社なのか。その目的に、どれほど近づけているのか。
『見える』ことで行動が変わる。
さらには『何を見せるか』によっても行動の方向と速度は大きく変わる。

現在もT社長とは、はじめてのF市暮らし応援隊づくりを行なっている。